薬業時報
昭和26年6月13日

ルチンの薬理と応用(1)
      =米国農務省農薬研究報告から=
          (常磐植物化学研究所提供)
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脳溢血の予防薬として最近その用途を見出しつつあるルチンに関する米国農務省の農業研究報告として本年二月出版されたケミストリー・ファルマコロジー・アンド・クリニカルアップリケーション オブ ルチンを慶松一郎博士の好意によって通読の機会を得たので、医薬品取扱い関係の人々の参考となる部分を抄訳紹介することとした。但し一二知見を付加した処もある。

1.はしがき

ルチンが世に知られたのは1世紀以上前のことである。ニューレムブルグの薬剤師アウグスト・ワイスが1842年にその発見の報告をしている。

ルチンの名称は最初発見された植物藝香に基因する。間もなく他の植物からも発見され、今では植物界に最も広く分布している配糖体の一つとされている。本品を含む植物は以前は織物用繊維の染色用に用いられたが、合成色素の出現でその応用は欧米では止まり中華民国に影を止めるだけとなっている。医薬用の用途は漢方薬として用いられただけで、ルチンそのものとしての用途は近年迄なかった。

1936年にゼント・ジョルジーが、レモン及びハンガリア赤蕃菽からアスコルビン酸と分別して一物質を得、そのものが毛細血管の浸透性及び脆弱性の増加しているのを癒す働きを持っていることからこれをヴィタミンPと名付けた。ヨーロッパの化学者のこれに関する多くの化学的研究は、フラボン及びフラボン誘導体に近い関係があるということの外は働きのある物質の分離及び見分けに失敗した。その為VPの化学的性質は未詳の儘であった。

1943年、グリフィスリンダウェル及びコーチの三人によってルチンが毛細血管の脆弱性及び浸透性を通常の状態に回復することを初めてペンシルバニア州医学会に報告した。引続いて翌年も十四名の患者に対する実験結果を報告したので科学界の注目を惹き、その時以種々の医学薬理学及化学雑誌がルチンの性質や出血その他の用途に関し掲載した。

ルチンの医薬としての立場はハムブルヒ大学の生理化学研究所のクウナウ博士によって纏め上げられた。彼はルチンが空中、熱、弱い酸及びアルカリに割合安定で、無毒であり、適確な用量を与え得且経口的に高効能があることを実験し、ヴィタミンPの有効物質とした。

その分子式はC27H30O16・3H2Oで非常に純粋な状態に製し得るフラボノール配糖体である。本品は顕微鏡下では針状結晶の塊であるが、外観黄色の粉末で無味、無毒である。熱湯には溶けるが冷水には難溶である。水から結晶させたルチンは3分子の結晶水を含むのを正規とするが、結晶水は用意に種々の度合いに変化する。ただ第3分子は真空、高熱又は強力乾燥剤をその分離に要求する。分解点は約214度、軟化点は185度乃至192度である。

ルチンは広く自然界に存在し、現在約四十種の植物からその存在が報告されている。蕎麦、槐樹、黄色パンジー、ニハトコ、レンギョウ、煙草、アスパラガスはその主なものである。

2.薬理作用 【毒性】

今迄発表された多くの報告中には意見の激突や矛盾があるが、批判的な何等評価をなさずに記述する。

【毒性】
ルチンの毒性の完全な研究はウィルソン等によって行われた。ラッテ及びモルモットにパアキログラム30~50ミリグラム宛の静脈内又は腹腔内注射及家兎にパアキログラム100乃至200ミリグラムの静脈注射は無毒であった。白ラッテの成長はルチン1%を含む餌で影響を受けなかった。この餌で400日餌養したがルチン投与の悪結果は何等現れなかったし、試験動物の内臓の目方は正常であった。

ギルトナー(1947年)が行ったモルモットの餌養試験では、八週間の期間ルチンを1日10乃至20ミリグラムを含む割合で与え、最後に解剖に附したが死後の所見は正常であった。動物は試験期間中正常の体重増加をなし、以上の症状を示したときはなかった。

人体実験によるルチンの排泄に関する研究の中でポーター、デイケル及びコーチが、七日間一日2.25グラム宛三健康人に投薬したが、どんな症状も見出されなかった。 此の外にルチンの毒性の欠除を報告した人々にブランドル及びシャルテル、ガリノ、マスクレ及びパリス、チムメルがある。

引続いて右期間ルチンを患者に与えた医師の臨床実験の結果は人に無毒であることを示した。患者のある者は五年以上もルチンを毎日60ミリグラム或いはそれ以上を服用した。すべてのこれらのデーターはルチンが無害だと云うことを証拠だてるものである。

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ルチンの薬理と応用(1)
ルチンの薬理と応用(2)
ルチンの薬理と応用(3)
ルチンの薬理と応用(4)
ルチンの薬理と応用(5)
ルチンの薬理と応用(6)
ルチンの薬理と応用(7)
ルチンの薬理と応用(8)
ルチンの薬理と応用(9)
ルチンの薬理と応用(完)