薬業時報
昭和26年6月20日

ルチンの薬理と応用(2)
      =米国農務省農薬研究報告から=
          (常磐植物化学研究所提供)
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2.薬理作用 【吸収及排泄・血圧実験・アスコルビン酸節約効果】

〔吸収及排泄〕
早期(1913年-1928年)の研究者は、ルチンが犬や家兎に経口又は静脈内注射で与えられた時には、その大部分が尿中から発見されることを報告している。ポーター等(1949年)は尿中に於けるルチン及びその他のフラボノールを決定する確実な方法発見の研究の途中で、人体内のルチンの吸収及び排泄に関するデーターを得た。
此等の研究者は7日間引続き1日2.25グラムと言う大量の用量にも拘わらず、スペクトロスコープ法を用うることによって、尿中に現れたルチンの量が非常な少量であったことを発見した。大便の試験はフラボノールの存在を現さなかった。それ故ルチンは組織の中に貯えられる又は行われた方法では決定し難い産物に速かに変形してしまうかどちらかを決定しなければならない。皮下注射を行ったときも兎も角くもルチンの一部が尿に現れる。
ドクトル・デエヅは家兎に数回経口及び静脈に与え、尿の24時間に渉る標本を収集した。経口的に与えた家兎から得た検体中にはルチンが痕跡だけ検出された。静脈注射の場合はルチンの八分の一量だけ尿中に見出された。
クラアク及びマツケイ(1950年)は、最近これ等の見解を確め且つ他の数種のフラボノイドを包括してその研究を広げた。

〔血圧実験〕
早期(1932年-36年)の研究者はルチンは血圧を上昇させると報告した者もあった。アルメンタノ(1938年)は、犬及び猫を用いて数種のフラボノイドの静脈注射による血圧に対する効果を研究した。ルチンは用いられなかったが、ケルシトリン、ケルセチン、ラムネチン、シトリン、ナリンゲニンは血圧降下に作用があり、ケルシトリンが最も作用が強かった。グリフィースは最近コーチに与えた書簡の中で、犬を試験動物とし10%ビリヂンのルチン10%溶液を1-5ミリグラム、パアキロ注射すると、3-4分間持続する水銀柱30-50ミリメートルの血圧降下をひき起こすことを記している。

〔アスコルビン酸節約効果〕
アスコルビン酸の働きを助ける或る種のフラボノイド化合物の能力は、早期(1937年)にスゼントジョルジーの仲間で注意された。モルモットは壊血病の食餌にシトリン、ヘスペリチン、又はデメチロヘスペリヂンを加えたときには壊血病が進行しないが、ケルシトリンは壊血病を防ぐことに失敗した。著者は此のデータから炭素の2と3との間の不飽和結合の存在と、第3のヒドロキシル群の存在が無能力をもたらすと結論している。
パパジョージ及びミッチェル(1949年)は、ルチンを補足したビタミンCを適当量与えると、副腎にアスコルビン酸の濃度を増すことを報告し、ルチンの持つ酸化防止作用がエピネフリンに働き(エピネフリンの酸化成績体アスコルビン酸の酸化に対し寄与するのであるが)アスコルビン酸を倹約する結果をもたらすことを示唆した。パパジョージ、ノーブル及びアマーゾン(1950年)はこの結果を副腎アスコルビン酸で繰り返すことは出来なかった。
アムブローズ(1949年)は、壊血病食餌を与えたモルモットに最小量に近い用量で与えたアスコルビン酸に対するルチン又はケルセチンの補給的若しくは余分の働きに就いて広い研究をやった。ルチン又はケルセチンは、食餌中でアスコルビン酸に代ることは出来なかった。そう処置された動物は壊血病が進行し、対象動物と異わない方向をとった。100ミリグラムのルチン又は50ミリグラムのケルセチンを経口的に毎日プロピレングリコール溶液で与えたアルコルビン酸0.2ミリグラムを、ルチン100ミリグラム又はケルセチン50ミリグラムと共に毎日与えた動物は、アスコルビン酸0.2ミリグラムだけ与えた対象よりは良好であった。
彼等の一般的な様子はよりよくなり、症状は明らかに減退した。而して関節の腫脹や硬さは減退した。アスコルビン酸とルチンを与えられたモルモットの生命はアスコルビン酸、ルチン又はケルセチンを単独に与えられたものより長命であった。死後の所見はフラボノールとアスコルビン酸の最小量に近い量を受けた群に同じであった。彼等の研究を続けた結果、副腎アスコルビン酸の量はルチンを採ることに無関係である。ルチンは彼等の実験の条件の下では、副腎アスコルビン酸の貯蔵に経済的な分子としての重要な役割は果たさないと証明することが出来た。

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ルチンの薬理と応用(1)
ルチンの薬理と応用(2)
ルチンの薬理と応用(3)
ルチンの薬理と応用(4)
ルチンの薬理と応用(5)
ルチンの薬理と応用(6)
ルチンの薬理と応用(7)
ルチンの薬理と応用(8)
ルチンの薬理と応用(9)
ルチンの薬理と応用(完)